伊予鉄道大手町線古町 18:05
オレンジ色の電車が海辺を走り、一世を風靡したドラマ「東京ラブストーリー」の舞台にもなった駅に停まる。
15歳の少女にとっては、友達と遊びに来た場所であるほかには特別な感慨はない。
瀬戸内海に面した渋い港町も彼女には平板な風景である。
彼女の心躍る風景があるとすれば、それは2年前まで住んでいた北海道か、どこかの外国になるのかもしれない。
「青旅」に来てくれた15歳の少女は、カメラに向かって物憂い笑みを見せる。
本人に写真を撮られる気持ちはなかったのかもしれないが、僕が撮りたいのは映える絵ではなくて人なので、そのまま撮る。
きっと友達同士でカラオケで歌ってるときはもっといい笑顔なんだろう。
電話で話す相手によって声色が変わるように見せる表情も使い分ける。15歳は7割くらい大人。
伊予鉄高浜駅から真向かいに見える興居島までは、フェリーでわずか10分。
船が動き出すと、ベンチに座った彼女は連日の勉強の疲れからかそのまま寝てしまう。それはもう鮮やかなほどに。
大人びた振る舞いの中に同居する圧倒的な若さ。
本人は自覚しようがないけれど、側で見ていると羨ましくってしようがない。
まあ、おそらく僕にもそういうときがあったのだろう。気がつかないうちに終わってしまっていたようだけれど。
砂浜で小ぶりなシーグラスをいくつか集めた彼女はそれを持ち帰れないと思ったらしく、帰る前に砂浜に埋めた。
そんなもったいないことをしてはいけない。分別なんて持たなくってもいいんだ。
なんて言いたくなるのをがまんする。若い人に説教するほど野暮なことはない。
帰りの船が出港する数分前。
島の山影に日が隠れて淡い青色になった海を背にしてすっと立つ彼女は、美しかった。
おのみち渡し船土堂桟橋 10:10
上り最終便の乗客は2人だけ。