奄美空港 10:45
僕は子どもの頃に迷子になった経験がないのではないか。
昭和生まれなので幼少時代のお出かけの楽しみといえば、街の中心にあるデパートのおもちゃ売場であった。
つい夢中になって大人とはぐれ、「紺色のシャツをお召しの三歳くらいのおぼっちゃまがお母様をお待ちです」なんて放送をされた経験がないように思う。覚えてないだけかもしれないけれど。
奄美空港でベンチに座っていると、エスカレーターで五、六歳くらいの男の子と女の子が遊んでいる。親は近くにいるらしいのは、彼の視線でわかる。
しばらくしてふと気がつくと、女の子はいなくて男の子だけが硬い顔をして突っ立っている。
通りかかった土産物屋の店員さんが気づいて彼に声をかける。「お母さんは?」
どうやら迷子らしいということで、二、三人大人が集まってきたところで母親が来た。飛行機に乗る彼のお兄ちゃんを見送りに行っていたようだ。
母親は子どもの手を引き頭を下げつつ帰って行く。何事もなくてよかった。
奄美→鹿児島→福岡と飛行機を乗り継いで尾道に帰る。
鹿児島空港での乗り換えが3時間くらいあるから散歩しようと外に出てみた。
足湯をしている人たちを眺めてやっぱり暑くて中に入ろうとすると、三歳くらいの男の子が一人でとことこ開いた自動ドアから出てくる。
びっくりして保護しようかと立ち止まると、子どもの名前を呼びながら父親が追いかけてきたので、ああよかったと人知れず安堵する。迷子どころか事故になりかねない。
小さな子どもにハーネスをつけてる人がたまにいるけど、僕は賛成である。
彼らは一瞬目を離すとどこに行ってしまうかわからぬ。
他人からどう思われようと、子どもの安全のほうが大事だ。
それにしても、今日迷子になりかけてたのがどちらも男の子というのは偶然なのか必然か。
女子より男子のほうが迷子になりやすい、たぶんそうだろう。
男の子のいるママさんたち、いつか「迷子さんのお知らせをいたします」という放送をされないためにも、どうか我が子から目をお離しになりませぬよう。