鹿児島県奄美市名瀬大字小宿 19:19
砂浜で白いドレス姿の彼女は額の汗をタオルで押さえつつ、誰にともなく言う。
「あっつーい!もうちょっと風があったらよかったのにねー」
それはダメです。即座に否定してしまって申し訳なかった。
でも本当に風は撮影の大敵。
風が吹くと声も通りにくいし、なによりせっかくのヘアメイクが台無しになってしまう。
髪を直すのに時間がかかって写真が撮れない、つまり写真が少なくなる。
今日はほとんど風がない。海もベタ凪。
暑いといっても内地のような意地悪な暑さではない。陽射しが強すぎるだけで、日陰に入れば涼しさを感じる。
弱いスコールがあったけれども、今日は夏のビーチ撮影としてはベストに近い天気である。
夕日を入れて撮りたいという彼女の希望で、撮影は夕方5時から始まる。
二人は朝4時半に起きて東京からやってきた。
冷房に体が慣れきっていて奄美の暑さについていけてない。
朝起きてからすでに12時間が経過しているわけで、すでにやや疲れが見えるなとファインダーを覗きながら思う。
しかしのんびりしているヒマはない。
昼間の陽射しが得られるの1時間ほどのうちに、必要なカットを撮ってゆく。
僕は何度も海で撮影をして慣れているから大丈夫だけれど、初めての二人は慣れないことに一生懸命。
暑さに耐えながらよくがんばっていただいた。
写真は撮られるほうもたいへんなのだ。
太陽が水平線の向こうに沈んだあとは、オレンジ色の光が空と海を染める。
帰りの車の中から二人はそれを見れただろうか。