広島県三原市糸崎 14:37
岐阜から北九州市の小倉まで1在来線で14時間かけて行く人はおそらくいないだろうけど、まれに僕のような人がいるかもしれない。
お盆の時期だから新快速も相生から乗り換える山陽線も人が多いが、新幹線よりは空いてるんじゃなかろうか。
少なくとも東京から名古屋まで立ちっぱなしというレベルの苦行はない。
気がつけば尾道を過ぎて、糸崎で岩国行きの電車に乗り換える。
30分ほどの待ち時間でホームにあるわずかなベンチはすぐに人で埋まる。
糸崎駅は無人駅である。
昭和時代の古い駅舎にベンチのある待合室があるからそこで休もうと行ってみると、一瞬足が止まる。
ベンチでは出張で来たようなサラリーマン風のインド系の男たちが数人、駅前のコンビニで買ってきたと思われる弁当を食べていた。
やはりというかエスニックな弁当を選んだようで、あたりにスパイスのような匂いが立ちこめる。
隅のベンチが空いていた。
ためらうことなくそこに腰を下ろしにきた日本人の男に、彼らは結界を破られたようなかすかな驚きの表情を浮かべる。
フォークを持つ手を止めて僕を見、愛想笑いのような笑みを向ける。
見ず知らずの外国人が浮かべるよくわからない微笑は、日本人の会釈のようなものであろう。
僕も同じように愛想笑いのような笑みを返して、そのインド空間に収まった。
やがて弁当を食べ終えた彼らはきちんとそれらをゴミ箱に捨てて、電車に乗るために待合室を出て行く。
たぶん同じ電車に乗るんだろうな。
まあ彼らは男だし僕もたいがいおっさんなのでそこに入っていけたわけで。
もしこれが若い女性たちだったらどうだったろう。
怖くてたぶん座れない。