予讃線伊予三島駅 16:14







 
 
 
撮影終えて大阪まで移動する。ツツジが満開となり今日から五月。
 
伊予三島駅ホーム屋根の柱には「UNION 1903」の刻印が見える。明治時代に作られた英国ユニオン社製の古レールが使われている。
 

 
伊予西条の寂れきったアーケード街の一角に、地元で長年やっているらしい美容室があり、そこで二人は着付けをしていた。
 
この店で婚礼の着付けは年に何回あるだろう。
 
店の壁には成人式で着飾った若者たちの記念写真が何枚も貼られているが白無垢姿の写真は見当たらなかった。
 
髪をセットする新婦が映る鏡の隣にはテレビがあり、新天皇の即位の儀式の様子を伝えている。今日から令和元年が始まった。
 

  
二人の地元はここではない。彼の実家は東に40kmほど離れた四国中央市の伊予三島だし、彼女は横浜の人だ。
 
彼の父方母方それぞれの祖父母と記念写真を撮ってくれるプランはスタジオにはない。彼女は着付けと介添えをしてくれる美容室をようやく見つけた。
 
祖父母は横浜で行われる二人の結婚式には参列できないのであろう。その代わりが今日である。
 
 
着付けが終わり、新郎の父上が運転する車で彼の実家へ向かった。ワイパーが絶え間なく左右に動く。「雨、止まないかなあ」と彼女は浮かない声で呟く。 
 
30分ほどで彼の実家に着くと、新郎の祖父君がスーツ姿で出迎えてくれた。
 
祖父君は無口だ。見慣れぬ孫の姿にはどんな感慨を抱いたろう。三世代でひとつの写真に収まると時間が凝縮される。
 
 
彼が子どもの頃に遊んだ公園で写真を撮るうちに雨は上がり、つづいて彼の母方の祖父母宅へと向かう。
 
こちらの祖父君は書道家である。二人は「令和」の文字を書いてほしいと言い、祖父君は墨を擦り始めた。彼は新しい元号が馴染めないようで何度か書き直したあと、ようやく二人は墨書された半紙を持って床の間の前に座る。
 
平成生まれの二人はどんな令和を作ってゆくのだろうか。
 
昭和生まれのご両親と僕はそれを楽しみにしていいる。結婚おめでとう。