名古屋鉄道名古屋本線鳴海駅 23:10
駅から北に向かって小高い丘に上る道の歩道にはハナミズキが植えられているが、わずかに花の盛りは過ぎているようだ。
向こうにオレンジ色のウインドブレーカーを着た三澤さんの姿が見えて、小さく手を上げる。
「なんか買ってくるから(家で)待ってて。開いてるから」というので、玄関続きの土間から座敷に上がってしばらくするとスーパーのお惣菜を買い込んだ三澤さんが帰ってきた。
「どういう風の吹き回し」と三澤さんが言う。前回お宅にお邪魔したのは5年くらい前だろうか。久しぶりの訪問だけれど「酒を飲む」以外の理由が見当たらない。
20年くらい前だったか、テレビのトーク番組でとある女優さんが「夜中に山瀬まみちゃんが『飲もうよ』って一升瓶持って来るんですよ」と言っていたのをなぜかいまだに覚えている。
その頃は、一升瓶飲むなんてどんだけ酒豪なのと思っていたのだけど、気がつけば自分もそうなっている。
持ってった日本酒の四合瓶が二本空になった。一升瓶を持っていけばよかった。
ちゃぶ台にあったタンカレーのお湯割りをいただきつつ三澤さんと写真の話をする。
少し酔っ払った三澤さんはYouTubeで武田鉄矢が映画『男はつらいよ』を語る動画を探し出して僕に聴かせてくれる。
映画の撮影で役者が「自然に」登場人物になりきって演技する様子が語られる。
それは監督である山田洋次のディレクションによるのかどうなのかわからないけれど、そういう撮影がしたいのだという。
言わんとすることはわかる。
たぶんどのフォトグラファーもそうしたいだろう。インスタで集めた写真を見せられて同じのを撮ってくれと言われるのはまっぴらごめん蒙りたい。
絵を描く人と違って、人の写真を撮る人は、撮るべき人がいないと撮れないのである。
昨今の社会情勢がそれを困難にしている。昔は良かったよねという話になりそうだけど、酒飲み話で改善できるものではない。
そういう文化を作りたい。
名古屋鉄道名古屋本線名鉄名古屋駅 17:13 鳴海の三澤さんの家に行く。お酒とおつまみ持って。