京都市交通局烏丸線今出川駅 12:09
絶え間のない蝉時雨が緑の木立から降ってくる。
緑したたる公園で、毎年の家族写真を撮る。
今月12歳になったお姉ちゃんは思春期のまっただ中。黒いマスクを頑として外そうとしない。目も合わせない。
ママがこのまま撮ってくださいというので撮ったけれども、なんだか申し訳ない。
人生にはそういう時期もあるだろうし、これからの人生を作るのは彼女自身でもあるから、無理せず大人になってほしいと思う。
小学三年生の弟くん相変わらずどこまでもマイペース。自分の好きなことだけやっててブレがない。
そんな彼もそのうち思春期を迎えるだろう。どんなふうに成長してゆくのか、楽しみである。
撮影終わって、今出川駅から地下鉄に乗る。
改札口前に小さな売店があり、飲み物やちょっとした土産物を置いている。そのなかに鯖寿司があった。ミチコさんの好物である。
売り子のおばさんは、土産物など買わなさそうな男が立ち止まったので、おや、という表情で僕を見る。
鯖寿司の賞味期限を尋ねると明日まで保つという。
尾道までの帰りは新幹線ではなく山陽線である。
「いつ食べるの?」今夜だけど「じゃあ大丈夫。今朝作ってるから」
おばさんはクーラーボックスから包装紙に包まれた鯖寿司(半身)を取り出してビニール袋に入れると、はいと差し出す。1300円。保冷剤はなかった。
鯖寿司はもともと海から離れた土地で生まれた食べ物である。
京都の今出川から尾道まで、5時間かけて持ち帰った鯖寿司をもぐもぐ食べたミチコさんの感想はひと言。「味わい深い」