函館本線札幌駅 6:47
北海道の夏が最後の力を振り絞っているような青空だった。
それでも内地に比べればぜんぜん過ごしやすいのだけど、暑いことは暑い。
滝川からの富良野行きは、冷房のないキハ40。
乗り込むとむっとする暑さだが、走り出せば窓から吹き込む風の心地よさよ。
山間部のトンネルに入ると、涼しいといより寒ささえ感じる空気が車内を冷やす。
仕事のために開いたMacbookが手付かずになっている。
一日あたり約2千円の18きっぷで、ただ鉄道に揺られているだけで楽しいのだから、安上がりな趣味である。
富良野は昨夏以来である。
新得方面への列車は3時間半後なので、駅前をひと巡りする。
とある雑貨店の裏でおばさんたちが花壇のコスモスを手入れしていた。
空き地に面した店の外壁には、コスモスの花に合わせたような柔らかいタッチの壁画が一面に描かれてある。
彼女らに写真を撮ってもいいかと聞くと「どうぞどうぞ」と言いながら、高いところは冬の間、壁に雪を積み上げ、そこに登って描いたのだと説明してくれる。
内地の人間には思いも寄らないアイデアに感心する。
「あそこに描いた本人がいるから」と紹介してくれたので、せっかくだから写真を撮りましょうかと誘うも「もっと若かったらいいんだけどねえ」とぜんぜん乗ってこないから、あきらめる。
彼女は店の宣伝とか何かが目的ではなく、おそらくただ描きたかったから描いたのだ。
ひとつの目標に向かう情熱というより、それが彼女のごく自然な営みなのであろう。
おそらく誰のなんの役にも立たぬ絵を描く行為。それに強く惹かれる。
願わくば僕の仕事もそんなふうでありたいと思う。お金はいるんだけども。
根室本線の東鹿越から代行バスで新得に抜け、十勝平野を横切って釧路まで行く。
池田駅で20分近く停車したので駅前に出てみると、がらんとして人影も見えない。
日が暮れて一気に寒さがあたりを覆う。
尾身さんの役をやれる人はほかにいないだろうなあ。
富良野行きに乗り換え。
週末旅行者が9割。ボックスシートの空きはない。