東京国際空港 16:50 



 
 
尾道へ。
 
モノレールの浜松町駅で、二人の若い女性がANAの広告を「やばいやばい」と言いながらスマホで何枚も撮っていた。広告の主役は、とある男子フィギュアスケート選手である。彼女らの興奮ぶりを見ていると、そんなにそいつがいいのかよ、と思わないでもない。すべてにおいて僕が勝てる相手ではないのだが…
 
仕事をするラウンジには西日が射し込んでくるから遮光スクリーンが下ろされている。その陽射しを浴びる位置に座っていただのが、いつしか日が落ちたようだ。係りの女性がスクリーンを上げると、舞台の幕開けのように夕焼け空が視界に飛び込んでくる。富士山がシルエットになって彼方に見える。僕はカメラを取り出してシャッターを切る。
 
すぐにスマホを手にした人たちが席を立って集まってきて、空を撮り始める。撮った写真はSNSにアップするのだろう。それでその写真は役目を終える。みな自分が見聞きした何かを誰かに伝えたいのであろう。
 
僕も同じように写真を撮ったのかと考えると少し違う気がする。おそらく僕はこの夕空の写真を保存して、ふとしたときに自分で眺めて悦に入る。それはコレクションのようなもので、ああそうか、浜松町駅で見た彼女らが撮っていた写真ときっと同じだ。