山陽本線東福山駅 16:40
「もうちょっとあったかくなるはずだったんですけどねえ」と新郎は片手に持ったアイコスの煙を吐き出しながら苦笑した。
今朝の福山市の最低気温はマイナス3.7℃であった。この時期としては寒いほうだろう。晴れていたのが幸い。
両家家族だけの結婚式である。
式は結んでささやかな食事会となった。親族紹介を兼ねて家族が自己紹介をする。
最初に新郎のお義兄さまが「末長くお幸せに」とあたりさわりのない祝いの言葉を述べてマイクをキャプテンに戻そうとするとき、ちょっと待ったお義兄さまの好きな食べ物は?と僕が突っ込む。
持ち込みのフォトグラファーとしては越権行為である。
両家合わせて8名だけなので、この質問で宴席が押すこともあるまいが、事前にキャプテンと打ち合わせもしていない。
式場側にはいい顔されないところだが、幸いにして鷹揚なキャプテンであった。
お義兄さまが「からあげクン」と答えて、少し緊張感のあった宴席が緩む。家族が自然な笑顔を見せる。
一人ずつ好きな食べ物を言い合う自己紹介が終わったところで、このツッコミを拾ったキャプテンが「では、カメラマンさんの好きな食べ物は?」と振ってきた。なかなか上手い。
ハレの日を作るのはたいへんだけれど、皆が幸せな気分を味わえるのはいいことじゃないか。
特別なことはしなくてもいい。お開きまでよく笑う二人であった。それで十分だ。結婚おめでとう。