東京都交通局大江戸線光が丘駅 10:17
公園のイチョウは美しく色づいてすでに散り始めている。
十二歳の少女は来年もう中学生になるのだから、早いものだと昔を懐かしみながら母娘は金色の並木道を歩く。
カメラを意識する彼女はママにくっついている。そろそろママの背を追い越しそうだ。
可愛らしく笑った顔も撮りたいのだが、できたら素の表情も撮りたい。そのほうが彼女らしさが出ていると思う。
家族で遊んでいるときと、僕の前に一人で立つときの顔は違う。当たり前だ。
僕がふざけても彼女は苦笑いのようになってしまって、困ったなあと思いつつも、それはそれでしかたがない。友達に見せる笑顔とは違う。
今朝はよく冷えたらしく、芝生には霜が降りてうっすら白く雪が積もったようにも見える。
母娘は霜柱のことを話しているが、そばで聴きながらいまいち的を得ていないように思うのはここが都会だからだろう。
そうえばザクザクと霜柱を踏んで歩くこともしばらくしてないな。
彼女に黒い土を押し上げる小さな氷の結晶を見せてあげたい。
中学生になったら何をしたいか、などという僕の凡庸な質問には苦笑いして答えない。
目標とか夢とかそういうことじゃないのか。
彼女なりの世界がどこかにあるのだろう。それとも今はそれを探しているのだろうか。
一人の写真を何カットか撮り終えたら、紅葉したモミジの葉を髪に乗せて、彼女はママのもとへ戻ってゆく。