東京地下鉄日比谷線秋葉原駅 16:40





11歳になる女の子は澄ました顔でカメラを見ても笑わない。
 
彼女は江戸城の石垣に残る刻紋を探して歩く。
 
刻紋は築城の際に工事を請け負った各藩が目印にと石に刻んだ印のことである。今もところどころに残っているらしい。 
 
しばらくして「あった!」と声が上がる。丸に十文字はすぐに島津家とわかるが、四角にアンテナのような鉤がついたものはよくわからない。 
 
城好きな人はそれらを探して歩くらしい。彼女もその一人。
 
なにがきっかけだったのか、城に興味を持ってあちこち見て回っているそうだ。熱が高じて検定試験まで受けてしまった。
 
行きたい城はなんといっても姫路城で、東京からはちと遠いが、見るべき価値はある。いつか訪ねて行くことでしょう。



石垣ばかり見ている彼女の写真は真面目な顔ばかりなので、少し遊んでもらおう。
 
と思ったけれども、思春期入口の少女はもう写真を撮られたくないらしい。
 
赤ちゃんのときから撮ってきたから、しかたない付き合ってやるよ、という感じで僕のリクエストに応じてカメラの前に来てくれる。「5分経ったら終わっていいですか」いやそれは困る。
 
 

カメラの前に一人で立つときと、パパとママと三人で遊んでもらうときでは彼女の表情は違う。

いつの間にか子どもは成長してしまうのだ。彼女が無邪気に笑うたびに開いた花火を逃さないようにシャッターを切る。

城大好き少女はどんな大人になるんだろうね。

 
僕が銀杏を撮っていると、次々に人が立ち止まって写真を撮り始めるバズり現象が起きる。

東京都千代田区九段南 15:45 本日の撮影終わり。2件目は十歳女の子の家族写真。 女の子は思春期の入口。はじめはよそよそしくカメラを嫌がるのに、慣れるとぐいぐい寄ってくる。そのアンバランスさが彼女の成長なのだろう。心が不安定になりがちな時期だけれど、健やかであってほしいと思う。





九段下から秋葉原まで歩く。神保町あたりの古書店街を見ると、尾道から来たお上りさんはああさすがに東京だなあと思う。人が集まれば知識も文化も集積する。



ホテルに戻る途中。南千住駅の南側には貨物ヤードを跨ぐ長い陸橋があって、初冬の夕暮れをしばし眺める。