広島電鉄江波線舟入町 15:44



   
心が浮き立つような朝であった。 

結婚式の会場となる料亭にやってきた両家の家族は、口々に極上の青空が広がる今日の天気を褒め合う。
 
それだけで祝福されているような気持ちになれるのだから、ハレの日が晴れかどうかは、やっぱり大切だ。こればかりは天に祈るしかないけれど。
 
 
 
コロナウイルスの影響で半年遅らせた結婚式。ゲストも減らして家族と親族のみ。目立った演出は何もなし。人前式をして、乾杯のあとは食事をしながらの歓談のみ。
 
しかし、結婚式とはそういうシンプルなもので十分なのではないか。見た目の派手さ奇抜さは、結婚式の本質から離れている。  
 
 
 
家族だけの会食は終始和やかな雰囲気の中で進む。
 
青果店を営む新婦の父上は、実直な性格なのだろう。一人娘の読む手紙にこみ上げる感情を隠しきれない。小津安二郎の「晩秋」に出てくる父親役の笠智衆を見る思いがした。 
 
 

感情を隠せなかったのは新郎も同じだった。最後の新郎挨拶のときには、様々な思いが一気に押し寄せたのであろう。考えていたはずの言葉がまったく出て来ず、そのまま締めた。
 
 
それでいい、というか、それがよかった。
 
結婚式は言葉にならない感情が生まれる場所と時間である。式場が提供する型通りの結婚式がなんと無意味なことか。
 
二人と二人の家族にとって、本当に必要な結婚式であった。
 
結婚おめでとう。末長くお幸せに。