東京都中央区銀座 13:22

  
 
 
 
銀座のNPSでD750をオーバーホールに出したあと、気まぐれにニコンサロンの写真展をのぞいたら思いがけず引き込まれた。
  
はじめに作者自身の妻と子どもの家族写真。次にいきなり母親(台湾人)の骨壷と墓の写真、母親を想起させるさまざまなモノの写真と続いて、ブルーシートにぽつりと置かれたタバコの吸い殻の写真のキャプションは「母が最後に吸っていたタバコ」。その隣に彼女の殺害を報じる新聞記事の写真、そして自身の幼い頃の写真。
 
展示順を逆から見ていたらしい。
 
最後にステートメントを読んだら、作者の母親は彼が10歳のときに殺されたと記されてある。風俗関係の仕事をしていたようだ。犯人は不明。彼の父親は誰だかわからない。
 
なかなかに重い境遇の持ち主が入口の受付カウンターにいた。松本欣二さん。「爽やかな好青年」然とした面立ちである。
  
殺された母親の存在を否定するように育った彼は、自身が子を持つようになって「家族」を見つめ直す。
 
母への追想と、彼自身の内面への思索が、展示された写真と写真の間の空白から立ち上ってくるようだ。彼の心の中の葛藤を感じる。こんな表現の仕方があるのかと思う。これはPCのモニタではわからない。写真展という形でしか伝わらないのではなかろうか。
  
僕の仕事とも関係があるような気がして、興味深く作品を鑑賞させていただいた。
 
 
 
しかし、壁に並ぶのは技巧にこだわった写真ではない。どちらかといえば平凡な写真であるし、まして彼の子どもの頃の写真は単なる複写である。
 
よくサロンの展示審査をパスしましたねと、たいへん失礼ながら在廊していた彼に伝えると、彼ははにかむように笑って言った。「(審査通過に)3回かかりました。あれこれ組み直して」
 
異色の写真展であるのは間違いない。
 
 
松本 欣二 写真展「媽媽(まま)」
https://www.nikon-image.com/activity/exhibition/salon/events/201706/20190306.html