尾道は白く霞む春の日。東京へ向かう。
岡山から赤穂線の電車に乗り換え。春休みに入ったからか、平日の昼間にもかかわらず車内は混んでいる。
播州赤穂行きは日生駅で同士の行き違いのために数分間停車する。
ホームに降りてみると、まだ蕾の桜の木の向こう、真新しい一軒の家の前で記念写真を撮る親子が見える。
黄色い帽子を被り、制服姿の男の子は小学六年生か。えんじ色の卒業証書を胸の前に抱えて母親と、妹らしき女の子の持つカメラの前で笑っている。
その光景を僕はふわっとした気持ちのまま眺めていた。
きっと本人たちは意識していないだろうなあ。幸せというのはそこから少し離れた場所で気がつくものなのかもしれない。