東北本線秋葉原駅 14:29
乾いた空気と陽射し。冬の関東らしい青空である。
撮影は午後からなので、新宿のニコンサービスセンターに行って、修理に出していたレンズを引き取る。
ショールームは高層ビルの28階で、眼下に新宿駅の西口広場がよく見えるのだが、歩く人はまばらである。もっとざわざわしているかと思っていた。
小田急百貨店が建て替えのために閉店し、仮囲いができている。
何十年と変わらなかった景色も変わる。
神宮外苑も樹木を伐採してビルが建つというし、変わらないことよりも変わることを求める人が多いからなのだろう。
変わらないでいることのほうがよほど貴重ではなかろうかと思いながら階段を降りる。
2年ほど前から依頼をいただくようになった会社は業績が順調のようで、全国あちこちに新しいオフィスができたり拡張したりしていて、そのたびになぜか僕に記録写真を頼まれる。
儲かっているのはいいことだ。僕もあやかりたい。
秋葉原にある真新しいオフィスの内観写真を1時間で撮り終え、データをSDカードに入れて担当者さんに渡せば仕事は終わり。
晴れてはいるが、ビルの谷間を冷たい風が吹き抜けて寒い。
暖房が効いた建物の中は汗をかくほどだったので、温度差に気をつけないといけない。
駅に向かって歩く。直線だらけの都会は空気が希薄だ。
今日のヒーロー。
米原行きの新快速が尾張一宮駅を出ると、左には名鉄の特急岐阜行きが同じ時刻に発車して並んで走り始める。
とっさにカメラを出して真っ暗な夜を走る隣の電車を撮る。
ふと気がつくと、名鉄の車内から僕に向かって手を振る白人の男がいる。彼が入るようにカメラを向けて一枚撮り、手を振り返した。
彼も僕が手をふったことに気づいたようだ。わずかな邂逅。
何か言葉を交わしたわけでもないのに、彼と気持ちが通じ合ったような感覚を覚える。
やがて名鉄の線路はJRから離れていき、白く光る窓の中の見知らぬ彼は闇の中に小さくなっていった。