尾道 13:22
隣の公園のハクモクレンがこぼれるような白い花を咲かせている。
気持ちのいい春の陽気。仕事するのがもったいないから、しばらく外で野良猫撫でたり写真を撮ったりする。尾道住んでてよかった。
今年の春は暖かく、桜の開花が早いようだ。東京では15日に開花して、22日に満開になるらしい。どうも早すぎる。
昨年は3月に寒波で桜を長く楽しめたのに、コロナの影響で撮影は少なかった。ゆったり咲く桜を眺めながら、もったいないと思いながら過ごしたものだ。
今年はどうだろうか。尾道では東京から一週間から10日遅れて咲く。
夕方、髪を切るために、気になっていたお店に行ってきた。
「それから」という名前で、日曜日と月曜日しかやってない。
美容師の木内さんはふだんは別のお店で働いていて、そこが休みの日に自分の店を開けているらしい。
入ってみると、6畳ほどの小さな部屋には、カット用の木の椅子とシャンプー台が置かれている。
壁には往年のフランス映画「なまいきシャルロット」の特大ポスターが貼られており、シャルロット・ゲンズブールがはにかんだような笑顔を見せている。
そのポスターを見つけなかったら、僕は今までと同じように千円カットの店に行っていたはずだから、シャルロットは偉大だ。そしてかわいい。
木内さんはハサミを使いながら僕に尋ねる。「何でうちの店をお知りになったんですか」
正直にそのポスターを見つけたからだと言うと、彼女は合点がいったようにうなずいて、「これ同居人が貼ったんですよ」と言った。その映画は見たことがないらしい。
あ、そうなんだ。空気が抜けた風船のように気持ちがしぼむ。フランス映画好きはあまりいないから、趣味が同じかとちょっと期待してたのだったが。
「映画見るのも好きなんですけど、出てる人のヘアスタイルが気になっちゃうんです」と彼女は言う。
僕は同居人さんのほうが気になる。通りからは見えなかった「さよなら子供たち」のポスターまであるし。
30分ほど丁寧にカットしてもらってすっきり。見る限り一部の隙もない。
千円カットが悪いわけではないのだが、当然ながら仕上がりが断然違う。それでも木内さんのカットは三千円である。お得感がありすぎる。
家に帰ったら、ミチコさんが僕の整えられた頭を見て「また(そこに)行きなさい」と言う。また行きます。