福知山線市島駅 14:19

 
 

   
千葉から帰省してきた娘の成人記念の写真を撮るために、母上は周到な準備を行った。
  
赤毛氈、紙風船、手毬に琴まで。
  
そもそも、お家がそのまま貸スタジオになるんじゃないかと思える純和風の建物。お祖母様に聞いたら築100年はゆうに超えるという。
  
無造作に置かれた古色蒼然とした屏風や火鉢がいちいちいい味を出している。
  
信じられない思いで、ここに住んでたの?と彼女に聞くと「二年前までここから高校に通ってました」と当然の答えが返ってくる。
  
素晴らしい環境で生まれ育った彼女が羨ましいが、本人はその重々しい歴史のある家から離れたかったのかもしれない。一人暮らし楽しいですと言う。
 


撮影は母上のディレクションで進められる。
 
手入れの行き届いた庭を背景に、ここに座って松の木が入るように、と細かい指示が出るからその通りに撮る。
 
彼女も割り切った様子で、母上の言う通りに写真に収まる。着物の柄も母上の意向を汲んだものを選んだという。ええ娘や……
  
 
 
そういえば、撮影終わって辞するまで、目を細めて娘を見ている母上の胸中をついぞ聞かなかった。
 
どんな思いで美しい振袖姿の娘を見ていたのだろう。子育ての苦労が報われた時間だっただろうか。
 
 
 
もし、彼女がいつか結婚することがあったら、この家で支度してからお嫁に出てほしいなあとフォトグラファーは勝手に思う。きっと素敵な写真になることだろう。本人はドレス着てチャペルで式を挙げたいかもしれないけれども。
   
小高い丘を越えて駅まで歩いて戻る途中の里山は、まだ彩度の低い冬の色。
  
梅の花が小さく咲いて春を教える。
 
 



















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