内房線五井駅 18:53
小湊鉄道の春は日本の春だ。
こじんまりした木造の駅は桜と菜の花に埋もれ、そこに古びた列車がやってくる。おそらく日本人のDNAに埋め込まれたのように懐かしさを感じる光景。
五井駅から房総半島を横切る小湊鉄道に揺られて1時間。山の中にある上総大久保駅で降りて、写真を撮った。
満開の菜の花の匂いが漂う。桜が優しく見守っている。
中学校を卒業したばかりの彼女は、はにかむような笑顔を見せる。
4月からは高校生になる。友達同士でディズニーランドにも行けるねと言うと、うんうんとうなずく。
高校の制服について尋ねたら、「かわいいです!」と即答した。
ああ、もうこれは高校生活が楽し過ぎて、あっという間に3年間が過ぎちゃう未来が見える。楽しみだろうなあ。
彼女は慣れないながらも、僕の意図を汲んでポーズや表情を作ってくれる。
どんな大人になりたい?と尋ねると、少し考えて「信頼される人」と答えた。うん、たぶんもう半分くらいは実現してる。
あいにくの曇天と寒さに加えて風が強い。
夕方予定していた撮影を切り上げて、飯給(いたぶ)駅から五井に戻ることにした。
帰りの車内で、彼女は一人離れて座り、窓外を眺める。
列車の揺れに身を任せながら、あてもなく考え事をするのは、ひとり旅でしかできない。
「青旅」の本来の目的はこれななのかもしれないなと思う。
彼女の旅はまだ続いている。
五井駅で母娘と別れて、僕は駅からやや離れたところにあるスーパーまで歩いて夜ごはんの調達。
車で乗りつけた作業着姿の男が僕を追い越して足早に店内に入ってゆく。
惣菜コーナーに行くと、その男はひと足先に弁当を探している……そこで彼は知人と鉢合わせしたらしい。
「こんなトコでなにやってんだ」「晩メシだよ」「なに買うんだよ」「これ美味いんだよ」とか照れ隠しのように言い合ってて、スーパーで知ってる人に会うと、なんか気恥ずかしいものです。
この日の「青旅」の写真はこちら。