東海道本線川崎駅 9:38
明け方に雨が降ったらしい。
道はまだ濡れているところがある。ビルの谷間を仕事に行く人や、散歩しているのかわからない人が歩いている。
駅前の目抜き通りには24時間営業の居酒屋だか中華料理屋があって、朝から食べ飲みしている人たちが見える。埋立地の工場へ向かうバスには無表情の人たちが乗っている。
都会で見る人々は雑多すぎて、モザイク画の細かいドットをひとつ一つ見ているようだ。尾道に帰ろう。
川崎駅のホームに降りたら熱海行きの列車に一本乗り遅れた。次の熱海行きは10分後だが尾道に着くのは1時間遅くなる。
いつものように米原から新快速に乗り換えると、おかきの匂いが漂う。
二人掛けの転換クロスシートの前の席に五十がらみのサラリーマン然とした男が一人座って袋入りのそれを食べている。
窓枠には麦茶の500mlペットボトルが置かれているのだが、その中の液体は麦茶の色ではなく、透明に近い。
ああこれは日本酒だな。瓶だと重たいのでペットボトルに移し替えて持ってきたのだろう。
電車の中で飲酒している人が近くにいるのは、たいてい敬遠されるものだが、彼は静かに飲んでいるし、僕は気にならぬ。
むしろ僕もウィスキーをそのようにして持ち歩いているので、勝手な親近感で話しかけてしまう。つかぬことを伺いますが、そのペットボトルの中身は日本酒ですか。
黒縁メガネの彼は僕をじろりと見やると、何を当たり前のことを聞いているのだといわんばかりの表情で「はい」とひと言答えると、窓のほうへ顔を背けた。
ついに仲間を見つけたという気持ちが一瞬でしぼんでしまう。
一人で飲んでいるところを邪魔して申し訳ないと思うけど、もうちょっと会話に付き合ってくれてもよかったのに。なんなら僕の旅行バッグにもウィスキーとつまみのナッツが入っているんだが……お呼びではなさそうですね。はい失礼しました。
岡山22時30分発の三原行きに乗り換えると、尾道には日付が変わる前に着く。
コンビニで冷えた白ワインのミニボトルを買ってきた。
胃潰瘍治療薬を服用中なのでかなり酒量を減らしているせいで、すぐに酔いが回ってくる。
出張中はいつも一人で飲んでいるけど、たまには気の置けない誰かと飲むのもいいだろうなあ。
東海道本線川崎駅 9:38
尾道に帰ります。
ホームには修学旅行に行く小学生の団体さん。引率の先生が手に持つ「しおり」の表紙には『最高の思い出を作ろう』という文字が見える。
東海道本線早川〜根府川 10:50
ぽつりぽつりと七五三の撮影予約が入る。
東海道本線静岡駅 12:41 興津ではなく静岡で乗り換えして東海軒「富士見そば」。 地元ローカルな駅そばは年々減ってるけど、長く続いて欲しい。