尾道 17:06

 
 

 
美しい花嫁には高い身体的能力が求められる。
 
真夏の白無垢、真冬のドレス。
 
前撮りにはどちらも過酷な状況である。体力と忍耐力が必要だけども、それを楽しそうにこなしてしまうのだから、男はまったくかなわない。
 

 
瀬戸内の海を強い北風が吹き抜けている。気温1℃。カメラを持つ手がかじかんで痛い。
 
砂浜に立つ真っ白なドレスの裾が煽られて揺れる。肩を出したドレスを着て彼女は笑いながらカメラを見ている。体感気温はマイナスだろうに、その元気はどこから来るのか。おまけに彼女は妊娠中なのである。撮っている僕のほうが勇気づけられる。
 
とはいえ極寒のなかで長時間の撮影はできない。構図を決めたら急いで撮って毛布を羽織る、の繰り返し。
 
厳しい寒さの中でがんばっていただいて感謝である。
  
 
 
瀬戸田の未来心の丘と向島の海で撮影したあと、最後は彼が毎週日曜日に通っているという尾道の教会に入った。彼は長崎県の上五島出身でクリスチャンなのである。
 
結婚式のような写真を撮ったけれども、二人はいつかきっと本当の結婚式をするだろう。結婚式とは宣誓である。今日はまだ何も誓っていない。
 

赤ちゃんが生まれる前の二人だけの時間はもうすぐ終わり。今日の写真はその時間の記憶。