富士急行河口湖線富士山駅 17:04

  
 
 
 
夕立が来るからと駅まで送っていただいた。
富士山は分厚い雲に閉ざされてまったく姿が見えない。

千葉から十歳の男の子にくっついて、富士吉田市にある彼の祖父母の家まで来た。
彼が一人で旅をするのは初めてのこと。任せていただいたご両親に感謝である。
 
一人旅といっても、僕が終始付き添って写真と動画を撮っている。
 
だから、できるだけ本来の一人旅に近づくようにしたいと思って、僕から彼に何かを話しかけることはまったくしなかった。
そのせいか、彼も僕に話しかけてこなかった。お互い無言のまま過ごした3時間40分の旅であった。
 
朝、ご自宅に伺うと、家の中が緊張感で満ちている。とくにパパがピリピリしている。子どもの一人旅は、親も不安に耐えるという試練であるようだ。見送りに来た駅のホームで初めて声をかけて家族写真を撮ったが、パパはぴくりとも笑わない。
 
当の男の子は、電車が動き出してしばらくは前途に思いを巡らせていたようであるが、そのうち任天堂Switchでゲームを始め、乗っている間じゅうずっと指を動かし続ける。僕が子どもの頃ならさしずめ「ゲームウォッチ」だろうか。ゲームがあれば子どもは退屈も不安も知らずにすむ。
  
千葉から富士吉田まで行くには、新宿と大月で2回の乗り換えがある。おそらく男の子も両親もそれが心配だったかもしれない。
 
しかし彼は駅の案内板を見て判断し、何も迷うことなく乗り換えを済ませた。強調しておきたいのだが、僕は撮影する以外、何 も し て い ま せ ん。

きっと彼は学んだことだろう。不安に思っていても、実際にやってみたら案外すんなりできるものだということ。なあんだ、簡単じゃん、と。
 
まあ、その先にはいろいろ落とし穴があったりするのだけど、それを知るのは後でもいい。まずは一歩踏み出してみることだ。
  
駅に迎えに来たおじいちゃんと無事に合流してから彼にまた一人旅してみたいかと問うてみた。
 
「大阪に行きたい」と彼は言う。目当てはUSJらしい。友達と行くとしたらと前置きして「子どもだけでいいって言われたら、子どもだけで電車で行ってみたいかな」
 
おとなしくて優しい性格の君もこんなふうに親離れするのか。
4年前から彼を見てきた僕はちょっと嬉しかった。

  
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