沖縄県石垣市白保 20:36
スマホで簡単に画質のいい写真が撮れてしまう時代に、わざわざフォトグラファーが撮る意味があるのだろうかとたまに思う。
石垣島の白保という地区で行われる成人式を撮るのだが、たぶん僕の撮った写真はほとんど誰も見てくれないだろう。
なにしろ頼まれてもいないのに勝手に押しかけていって撮るのだし。
だから仕事ではないのだが、なんでこんなことをやっているのかと問われるとちょっと困ってしまう。まあてーげーでいいじゃないか。
その地区に住む、とある家族と知り合って今年で12年目になる。その長女が今年成人式を迎える。
すでに彼女は島を出て、大阪の美容専門学校に通っている。
ほんの数年前まで日焼けした島の少女だったのに、ずいぶんと垢抜けしてきれいになった。
もうすぐ卒業して今春からは完全に独り立ちして新しい生活を始めることになるだろう。
がんばってほしいと思う。
石垣市の成人式は年末年始の帰省に合わせて1月4日に行われる。
式が終わったあと彼女は生まれ育った白保に戻って、集落での成人式行事に参加する。
沖縄本島や他の島のことは知らないが、石垣島の白保は地域内の結びつきが強い。
舞台のある大きな公民館には夕方になると新成人の家族や親戚が三々五々集まってくる。
式に参加する新成人は20人。
式が始まると二十歳の彼らは順番に一人づつ父母を伴って会場の中央に立ち、両親への感謝の気持ちを述べる。
参加者のテーブルには瓶入りの泡盛が置かれ、折詰めと飲み物(ビール、お茶など)が用意される。
そして新成人も親も来賓も、みな飲み食べながら式をするのである。
初めて見たときはだいぶびっくりしたものだが、この成人式を撮るのも3回目だからその雰囲気にも慣れた。
新成人は男女関係なくときに目を潤ませ言葉に詰まりながら訥々と語る。
中高と反抗期で荒れていたという男子が感極まって泣き出す。すかさず後方から、がんばれ!と掛け声が飛ぶ。
ようやく話を締めると、三線(さんしん)、笛、太鼓の地方(じかた)が演奏を始め、家族や親戚らと中央でカチャーシーをひとしきり踊る。
毎年その集落で行われている成人式だが、独特で印象的だ。
僕はその様子をひたすら撮るのだが、彼らははたして写真を見てくれるだろうか。
式には地元の映像会社が入って動画を撮っているが、なぜか写真担当のフォトグラファーはいない。
データをアップロードしたあとのURLをみんなで回覧して、写真を見てくれたらいいな。
着付けした美容室から集落に戻って、仏壇に線香を上げて手を合わせる。
集落の親戚を回って仏壇にお参りと晴れ姿を見せる。