山陽本線尾道駅 13:40
JR西日本が誇る新快速には、姫路から乗り換えなしで福井県の敦賀まで行く列車もある。
山科から湖西線経由だと3時間だが、米原から北陸本線に入ると若干遠回りで20分余計にかかる。
大阪から乗ってきたその男は60歳くらいで、白シャツ姿でネクタイはしていない。退勤して帰宅するサラリーマンと見える。
京都を過ぎて僕の隣が空いて彼がばさりと座る。大阪から京都まで30分かかるから、ようやく座れたという感じで息を吐く。
滋賀から大阪に通勤する人も多い。だから草津あたりで降りるだろうと思っていたが、近江八幡を過ぎ、彦根を過ぎても彼は座ったまま降りる気配がない。
米原から北陸本線に入り、長浜でまとまった人数が降りるのだが、それでも彼は降りない。僕の隣に座り続けている。
大阪から敦賀まで乗り通す人は少ない。
失礼ですが敦賀から毎日通勤されているのですか、と尋ねずにはいられなかった。
「いや、週末なので帰ってるんですよ」
そこでようやく合点がいった。大阪に単身赴任しているのか。
敦賀から大阪まで通ってる人はいるんですか。「さあ……いるんじゃないですかね」彼は興味なさそうに答える。
「サンダーバードで帰るつもりだったんだけど、(雨で)止まっちゃって」仕方なく遠回りで時間のかかる米原経由の新快速に乗ったらしい。
「あなたは、旅行?」僕をちらりと見て彼は聞く。いえ仕事で福井に行く途中です。
疲れているところに見知らぬ男と会話するのも億劫とみえて、彼はそれ以上突っ込んで聞くこともなく、おしだまる。
長いトンネルを抜けて敦賀駅が近づくと、彼は立ち上がってゆっくり前のほうに歩いていく。列車の先頭が改札口に近いのだ。
乗客のひとり一人に帰るべき家と日常がある。
敦賀駅の改札を出ると、北陸本線の運転見合わせを知らせる掲示板が出ていた。
山陽本線姫路駅 17:19 12両編成のうち敦賀行きは前4両。後ろ8両は米原止まり。抜かりなく先頭車の位置で待つ。