尾道 14:13
年が明けても小春日和が続く。
昼ごはんにスパゲティを作って食べて、近所のお寺のご住職にポートレートを頼まれていたので撮りにゆく。歩いて1分とかからない出張撮影である。
ご住職は80歳になられたということで、思うところがあるのだろう。
寺の歴史は古く、800年前くらいにはすでにあったらしい。平安時代末期の仏画が見つかっている。
本堂に通されて、法事帰りのご住職が「どこで撮ったらええかな」とやってくる。
お堂の中は西日が磨りガラスを照らして明るい。
なんと呼ぶのか知らないが、立派な刺繍の入った法衣を肩から掛けて橙色の紐を結ぶび、前後に細長い黄蘗の烏帽子をかぶる。そんなものを初めて見た。
「ちょっとおじいさんの(写真)持ってきて」先代住職の肖像写真を参考にするらしい。奥さんが持ってきたのは正面を向いた胸上写真である。「こんな感じで撮ってくれたらええです」
関西生まれで関西弁が抜けないご住職はせっかちである。
ご住職は脚を悪くされていることもあるし、はよ撮ってやという感じで阿弥陀如来を背にして立つ。胸上と全身を撮ったら、ほな次、とばかりに黒い簡素な衣に着替えてまた撮る。
お堂に入ってから30分とかからずに撮影は終わった。
真面目な正面カットばかりになってしまうから、最後に好きな食べ物を尋ねる。
わずかな逡巡のあとに住職は「豆腐!」と答える。え、豆腐?
「豆腐は毎日食べよる。冬は湯豆腐、夏は冷奴。そらあトロも好きやけどね」
どこか飄々したところのあるご住職は、いたずらっ子のような笑顔になる。