津山線津山駅 13:29


 
 
  
冷えた空気を吸い込んで蝋梅が咲いている。
津山城の川を渡った東側には、小高い山を背にしていくつかお寺が並んでおり、吉井川に向かってなだらかな斜面に家々が建つ。
 
ご依頼いただいた家族にはもうすぐ二人目の子どもが生まれるらしい。
 
本堂の中を縦横無尽に走り回る二歳の女の子を撮る。お寺の中はかくれんぼするには絶好の場所だ。しかし、彼女にカメラを向けるとすぐに逃げ出してしまってなかなか撮れない。
 
パパとママは困っているが、もっともそれが自然な姿である。僕はカメラを持った見知らぬおじさんにすぎないのだから。
 
ぜんぜん馴れてくれないので、おうちに入ってもらって落ち着いてからまた写真を撮る。
 
「いい写真を撮る」なんてことは、子ども本人にとっては関心がないし関係のないこと。カメラのレンズを意識している間はいい写真にならない。家族にとって僕の存在がどうでもよくなってくれるのを待つ。
 
 








  
  
撮影終えて、駅まで送ってくださるというのをいつものようにお断りして、駅まで歩いた。 
 
津山は古い城下町で、中心部には立派な石垣の城跡が残る。
  
観光地というには地味な街だが、旧街道沿いの街並みには風情がある。ところどころに若い人たちが居抜きで入ってカフェや雑貨屋をやっていたりする。
  
あとは飛騨高山や津和野のような物語性があれば、もっと外来者が増えそうだけどなあ…、そんなことを考えながら渋い建物が連なる通りを歩く。
   
工夫しだいで倉敷のような観光地に変身できそうなんだけど、残念ながら今の津山市にはそういうセンスがないんだろう。もったいないことである。(お役所にそういうセンスを求めるのが間違っているかもしれないが)
 
もっとも僕は観光地には興味がないから、今の地味な雰囲気のままのほうがよい。
  
人通りもない古く寂れた家並みにカメラを向けていたら、向かいから歩いて来た30代くらいの男に声をかけられた。
 
「写真撮ってるんですか?この先にピンク色の建物があるんで、見てってください」まるで何もない砂漠でばったり出会った人のようだった。同好の士っているんだなあ。
 
彼は近くでアートギャラリーをやっているからよかったら見てくださいと言い、そのまま背を向けて去って行った。