宮崎県椎葉村下福良 14:19






  

 
 
 
 
山肌に建つ家の庭先に立てば、谷間に細く伸びる村の中心部が見渡せる。
この村に日曜日に来たのは初めてである。まるで静止画を見ているかのような静寂が広がっていて、庭先で二歳の女の子が遊ぶ声さえもすぐに溶けて消える。
  
ママは早朝から宴会用の料理を作るのに忙しかったらしい。
おじいちゃんおばあちゃんも集まって、赤ちゃんの百日記念のお食い初めを祝った。
 
お祝いの料理は食べきれないほどあって、僕もいただいたがどれも美味しかったです。お祝い料理なのだろうか、蕎麦を具材と一緒に海苔で巻いて巻き寿司のようにしたものがあって、よく作れるものだなあと感心しました。
  
ひいおばあちゃんが「みんなでこんなおいしいものが食べられて幸せだ」と何度も言う。
 
幸せな時間を一緒に過ごせる仕事をしていてよかった。
 
 
撮影終わって車で日向まで75kmの道のりを一気に下る。
 
椎葉村までの国道は年々整備されており、3年前に初めて訪れたときより運転がラクになったが、すれ違うのさえ難しい区間もまだ残る。その昔は対向の運転手同士でしばしばケンカになったりしたらしい。
  
  
 
レンタカーの営業所はから離れていて、車を返し終えたらその車でスタッフが駅まで送ってくれる。
 
僕の荷物を見て彼は「いい写真撮れましたか」と聞く。椎葉に行くとは言ってあったので、おそらく風景写真を撮りに行ったと思ったのだろう。簡単に僕の仕事の説明をすると、やはり驚かれた。
  
「ぶっちゃけその…、ここまで電車に乗って来て車ば借りてですよ…?」彼が尋ねんとすることはすぐわかる。僕自身もなぜこんな仕事の仕方を続けているのかよくわからない。
 
ただ撮影のため、誰かに会いにゆくのが好きなのだ。遠ければ遠いほど、不便であればあるほど、嬉しみが増す。どうも僕はマゾ気質だな。知ってる人は知っているけど。
  
駅に着いて車を降りようとすると、背後で「がんばってください」と彼の声が聞こえた。