尾道 15:16

 
 

 
発送を終えて、どんより曇り空の生暖かい商店街を自転車で抜けると、赤いペット用リュックを背負ったミチコさんが坂道を自転車で走り降りてくるのが見えた。
 
動物病院に行くらしい。少なくとも毎週一回は通っている。どの猫を連れてゆくのか僕にはわからないし、なんの症状なのかも知らない。
 
僕は「それから」に髪を切りに行くのだ。
 
前回の散髪からもう三ヶ月以上経っている。髪の毛はほったらかしにして雑草の生い茂った庭のようになっているのだが、これを「それから」の木内さんは繊細な鋏さばきでもって丁寧に刈り込んでゆく。
 
もっとざくざく切ってもいいんですよ、とも思うが、彼女は小刻みに鋏を動かし続ける。 
 
 
 
唐突に夢の話を振ってみた。寝てるとき仕事の夢って見ますか。

「ああ……見ますねえ」やっぱり見るんだ。「一番面白かったのは、じゃんけんぽーん!と自分で言って起きちゃったときですねえ」

仕事の夢はたいがい悪夢に近くなるものだが、彼女のはそうでもないらしい。 
 
それは美容師という仕事が彼女に合っているからなんだろうか。
 


僕はカメラを忘れて焦る夢や、撮影場所になかなか着けない夢も見るが、前職の百貨店時代の仕事の夢をいまだに見る。今はなきデパートの売場で働く夢はそれほど悪くないのが不思議である。 
 
夢の中の売場は実際とはだいぶ違っていたりするのだが、僕が働いていたデパートのそれだとわかる。
  
若い頃でほとんど休みなしで働いて、それなりに楽しかったからかな。その仕事が合っていたのかどうかはわからないけれど。