鹿児島本線博多駅 14:34
列車にはいろんな人が乗ってくる。地方に行けばその土地に住む人が乗ってくる。
日本のどこへ行っても方言が違うくらいで、電車に乗っている人にさしたる違いはない。
だから僕はいつも列車に乗っている人を見ている。
徳山から下関行きの電車に乗って、はじめは、ずいぶんボーイッシュな女の子がいるなと思っていた。
真っ黒に日焼けした手足が白いTシャツから、豹柄の短パンから伸びている。髪は短くボブカットに整えられて、くりりとした目がスマホに注がれている。
途中の柳井だったか、もう一人こちらはキャップをかぶって髪の長い同年代の女の子が乗って来て、彼女の隣に座る。
二人は楽しそうにしゃべったりスマホを一緒に見たりして揺られている。
ああ彼らはたぶん恋人同士なのだ。
その姿が幸せそうで微笑ましくて写真を撮りたくって仕方がない。
彼女らに限らない。公園で見かけた親子とか、スーパーで買物している初老の夫婦とか、ここでこのタイミングでその表情真を撮りたいと何度思ったことか。
そういうときは脳内でシャッターを切っている。
その瞬間を28mmのレンズであの角度で撮った写真というのが頭に浮かぶ。
その見えない写真はいつしか記憶の中からも消えて、もう永遠に見られない。
福岡市博多区博多駅前 14:15 本日の撮影終わり。とある会社の新オフィスの内観写真。まだオープン前で、撮影のために外した注意書きの貼り紙を元に戻すのを忘れてきた。担当さんが気づいてくれることを祈る。