東海道本線名古屋駅 9:15
その男性が向かいの席に黒いリュックを下ろして座ったとき、すんでのところで知っている人の名前を呼びそうになった。
グレーのタンクトップに短パンを履いて、足元はクロックスタイプのサンダル。
髪のない丸い頭に、丸眼鏡、腹回りも丸い。
あまりにも似すぎていて、これはもう写真を撮らせてもらうしかない。家を決して彼にすみませんと声をかけ、知っている人の写真をスマホに出して見せたら、「おおっ、そっくりじゃん!」と声を上げる。
写真の掲載許可をもらうために名刺を出したら、「じゃあ僕も」と名前と携帯電話番号だけの名刺をいただく。
61歳。栃木県でカイロプラクティックの仕事をしているという。
「もう店やめて往診だけにしてる」お客さんは老人ばかりで、車に乗って来れないしネットもできないから電話番号だけで事足りるのだろう。
聞かずとも彼は福岡まで行ってきたことを話し始める。
「台風(6号)でさ、太宰府とか行こうと思ってたんだけどぜんぜん出られなくって」ホテル近くのラーメン屋に3日間通い、鶏皮焼きが名物だという店で5000円飲み食いした話をしてくれる。
ざっくばらんというか、飄々としているというか、彼の話っぷり雰囲気までもが知っている人にそっくりで、二人を実際に会わせたらどんな反応を見せるだろうかと思う。
東京で就職したものの、ほどなくやめてカイロプラクティックの仕事をするようになったそう。
「数字(売上)ばっか気にしてねえ。だめだよねえ。人にありがとうって言われるのがいいんだよね。あなたもそうでしょ」
彼のリュックの横ポケットにワサビと醤油の小さなボトルが入っているのが見える。「スーパーで刺身買って食べるときに必要なんだよね」
僕は自分のバッグの中の「ペットボトルに移し替えたウィスキー」を思い出す。なんか似てるな。
「青春18きっぷ」で旅する人はたいてい一人であり、どこか少し変わっている。
今日は福島市まで。台風7号の接近により、12時頃から在来線は本数を減らすとのこと