尾道 11:19




 
 

 
かすかに蝉の鳴き声が聞こえる。
 
曇っているうちはそれほどでもなかったが、陽射しが出ると一気に暑さが増す。
 
尾道の山手にあるお寺に続く階段を上り切った彼女は猩々緋の振袖姿。首筋にうっすら汗をかいている。
 
小さかった子どもがいつの間にか二十歳になっている。
 
パパは眩しいものを見るような面持ちで彼女を見やる。
 
並んで二人で写真を撮ろうとすると、慣れないのか照れくさいのか、笑顔を作ろうにも口を真一文字に結んで彼女を見れない。
 
周りに冷やかされながらなんとか写真に収まる。
 
こんなんでは、彼女がお嫁に行くときパパはどうなってしまうんじゃろう。
 
明るくよく笑う彼女であった。
 


夕暮れは風がない。夕凪というのか。
 
昼間は商店街を行き交っていた観光客がいなくなり、とても静かだ。 

まだ真夏の暑さにはならない。海べりで飲むにはちょうどいい気候である。 
 
年明けに閉店してしまう駅前のデパ地下でお惣菜を買い、コンビニで飲み物を調達して、尾道水道が見えるベンチに腰を下ろす。
 
これがすべて家から歩いて行けるなんて、なんと素晴らしいことでしょう。
 
時間を気にせず飲んでいたら、空が藍色になるにつれて、遠くに見える尾道大橋のオレンジ色の明かりが輝きを増す。