室蘭本線苫小牧駅 13:43
静かな海を進む船はたくさんの若者が乗り込んで賑やかである。
今年の高校総体は北海道で行われる。出場する高校生たちは船上で写真を撮り合い、おしゃべりに余念がない。
空も海も青い夏。彼らにとってはいい思い出になるだろう。
気持ちは若いつもりでも、彼らの親と同世代というのは常々自覚しておかないとたいへんなことになる。
若者に気軽に絡んでいってはいけない。
苫小牧駅のベンチで仕事をしていたら、ふらっと大学生くらいのカップルが隣のベンチに座った。
彼女はすぐに彼に向かい合うようにしゃがんでバッグからペンのようなものを取り出し、耳たぶに当てて「ここらへんでいい?」と聞く。
何をするのかと思えば、次に取り出したのは細長いプラスチックの小さな箱のようなもの。小さな針が出ているのが見える。(ピアッサーというらしい)
まさか、こんなところでピアスの穴を開けるのか!?ちらちら横目で見る僕を彼らはまったく気にしていない。
彼は「へー、これで開けるんだ」と落ち着いたもの。
彼女は「ドキドキする?」と彼に聞く。僕のほうがドキドキするよ。
ピアスの穴って美容室とかで開けるものじゃないのか。ハンバーガーを食べるみたいにカジュアルなものなのか。
「いい?いくよ?」彼女は彼に顔を近づける。
彼はいてっとも何も言わずに穴は開いたようで、さっそくピアスをつける。
「親にバレるかな」「バレるよ」ピアスの穴ほどの深刻さも感じていない二人は、道具をしまって立ち上がると階段を上っていく。
ねえ、せっかくのピアス記念日だから二人で写真を撮らせてくれないかな?
喉元まで出かかったセリフを必死に押し込めて、僕は彼らを見送った。