根室本線滝川駅 9:43
かつては道内のどこでも走っていたキハ40は、この数年で急に少なくなった。
新しいハイブリッドのディーゼルカーが導入されて置き換えが進んでいる。
このH100系というのは車体が軽量化され静かだしクーラーもついて快適だと思うのであるが、今までのキハ40の3分の2程度の長さしかない。
したがって座席が少ない。
おまけに窓が開かない。いや開くのだが、換気できる程度に窓の上が少しだけ内側に倒れる。これでは風を思う存分顔に当てることはできぬ。
やはり北海道の鉄道旅は、非冷房のキハ40に限る。
旭川から石北本線で網走まで行き、釧網本線に乗り換えて釧路まで行く予定だったが、旭川まで行く普通列車が人身事故を起こしてその予定はあっさり潰えた。
富良野から根室本線の代行バスに乗って新得に抜け、釧路までH100系に乗るしかない。
富良野〜東鹿越の鉄路は廃線が決まっていて、乗るのはこれが最後になるだろうから、これもいい機械である。
列車とバスの乗り換え駅である山間の小さな駅は、カメラを持った年増の鉄道ファンでつかの間賑わう。
いったん新得行きのバスに乗って、また降りて駅のホームへ向かう。
キハ40一両きりの列車には僕が来た富良野方面へ向かうファンが乗り込んでいる。
まだホームに残って写真を撮っている男に声をかけた。すみません写真を撮ってもらえませんか。
列車をバックにして写真を撮ってもらうなんて子どもみたいだが、記念写真はその時に撮っておかねば二度と撮れない。
とっさにポーズを考えたが初対面の人の前では恥ずかしさが先に立ち、中途半端に両手を広げた謎ポーズのまま写真に収まった。
まあいいや。日本人の記念写真は棒立ちかピースと決まっているのである。
ありがとうございますと言って、彼からカメラを受け取ったら「私も撮ってもらえませんか」とスマホを渡される。
おそらく彼も僕と同年代であろう。キハ40の前でまっすぐに立ってわずかに笑みを浮かべる。
かつて半ズボン姿ででL特急の前に立って写真を撮ってもらったように。