北海道鶴居村下雪裡 10:22

  
 
 
 
はじめはバスで行こうと思っていた。北海道の雪道を運転する勇気がなかったのである。
 
お客さんのご自宅は、路線バスの終点からさらに十数キロ先の原野の中である。だから迎えに来てもらおうと思っていた。
 
しかし、家から往復1時間かけて来ていただくのも申し訳ない。
 
幸いなことに今冬の釧路地方は雪が少ないようだ。そんなわけで、勇気を出してネットでレンタカーの予約ボタンを押した。
 
九州長崎で育ち、温暖な静岡を経て車のいらない東京で暮らし、さらに瀬戸内の尾道へと移住した僕は、雪の上を車で走ったことがない。スタッドレスタイヤがどういうものかもわかっていない。
 
雪道の走り方を調べると、急ブレーキ急ハンドルは禁物だとある。さもありなんと思う。ゆっくり走ればなんとかなるだろう。
 
釧路駅前で車を借りる。雪道を走るのはこれが初めてだということを日産レンタカーのスタッフに伝えるべきだろうか、とちらりと考えるが、そのまま乗ってしまった。
 
雪の上に残るタイヤの跡をたどるように走らせる。ふと気がつくと前の信号が赤だ。ブレーキを踏む。止まらない。がりがりと氷を削るような音がしてそのまま10メートルくらい滑り、やや斜めになって止まった。冷や汗が出る。前に車がいなくて助かった。
 
その後はできるだけ車間を開けて走る。なんとか市街地を抜けて鶴居村へ向かう県道に入るときれいに除雪されて、あとは普通に運転できた。
 
途中、鶴見台で車を止めて鶴を見る。
青空に白い羽を広げて飛ぶ様は美しい。ようやく車で来てよかったと思った。