東急電鉄田園都市線つきみ野駅 11:59
七五三の祈祷の間、神社の境内でぼーっとしていると、三人の老人がやってきた。
リュックを背負ってハイキングに行くような格好をしている。
山登りでもするのか、住宅地の中の小さな神社に何しに来たのかと見ていたら、社務所の玄関に顔を突っ込んで「ごめんください」と声を上げる。
今日は七五三で宮司さんが来ているが、ふだんは無人であろうと思われる神社である。もちろんアルバイトの巫女もいない。
宮司さんは祈祷の真っ最中である。社務所の中には誰もいないのに、呼び鈴を何度も押して「いないの?」「おかしいなあ」などと言い合っている。
大方、御朱印をもらいに来たのであろう。
ようやく祈祷が終わり、宮司さんが拝殿から降りてくると、彼らの一人がさっそく話しかけるが、やがて憮然として出てきた。
「そんな暇ないってさ」「じゃあ行こ」
彼らはあっさり境内を出て行く。御朱印をもらえない神社に用はないらしい。
その夫婦の結婚式を撮影したのは10年前である。
翌年産まれた男の子は九歳になり、その子が五歳の七五三をしたとき泣いていた赤ちゃんは五歳になった。
誰もが例外なく毎年ひとつずつ歳を取る。
兄弟は喧嘩もするそうだが、仲がいい。
兄は弟のことをよく見ているし、弟は兄を慕う。幸せなことだ。
祈祷のあとに男の子は絵馬に願掛けをした。それを家族みんなで見て笑っている。
彼が一生懸命に書いた願いは、
『いつか にっさんに はいりたい』
日産人事部の人、彼を採用してくさだい。
今はパパが単身赴任しているそうで、それじゃあママのワンオペたいへんでしょうと言うと、「もうずっとそうなんで」べつになんでもないですという感じのママの頼もしさ。
結婚式のときは想像もしていなかった人生であろうけど、子どもと一緒に大人も成長するのである。
お兄ちゃんの七五三のときもそうだった。今日も秋晴れの青空。兄弟揃って晴れ男だな。