桜井線三輪駅 15:09





 
神社の長い参道を九歳と五歳の男の子はどこまでも走ってゆく。止まれと言わない限り、そのまま一番上の拝殿まで行ってしまいそうだ。こちらは家族で一緒に歩いている光景を撮りたいのだが……あきらめよう。
 
その家族の七五三の写真を撮るのは今日で4回目になる。
 
毎回愛知県の自宅から奈良まで車でやってくるのであるが、地元で着付けたらしい着物はすっかり着崩れている。
 
五歳の弟くんが着ているのは羽織袴ではなく、狩衣である。
 
紐で縛らなければならず着せるのが非常にめんどい。それに烏帽子と木簡みたいな木の札が付属品としてついている。レンタルにこんな衣装もあるのか。
 
「これ着せたかったのよー」完全にママの趣味である。
 
おかっぱ頭にした彼は目元涼しく、『千と千尋の神隠し』に出てくるハクを思い出させる。実際はひとときもじっとしていないやんちゃな男の子なのだが。
 
七五三だからといって定番の着物を着る必要はない。
 
普段着でお参りする人もいるんだし、こういうときこそ趣味に振り切るのもいいものだ。
 


それにしても三人の子どもたちはよく動き回る。三歳の女の子も草履を苦にせず走り回っている。
 
そのままだと後ろ姿しか撮れないのをなんとかしてカメラに向かせるのだが、我ながらよくがんばったと思う。
 
まったくちゃんとしてない大騒ぎの七五三なのだが、子どもたちが成長して元気でいるのはなによりである。 

 
  
そういえば、パパも少し変わった。 
 
前回まで「ちゃんとしなさい」とか「走らない」とか逐一子どもに注意していた彼だったが、今回はほとんど口にしない。
 
吹っ切れたんだろうか。あきらめたとも言えるが。
 
子どもは信頼しても期待してはいけない。期待値を斜め上に超えてくるから。
 


大阪環状線新今宮駅 8:56 奈良県桜井市まで。 前の座席の外国人旅行者が、JR西日本「WESTER」のポスターを見つけて、"pretty witch"と言っている。日本人なら「魔女と宅急便」がモチーフだとわかるが彼らは知るまい。それなのに黒服・黒猫・箒で魔女と認識できることに驚く。

関西本線大和小泉〜郡山 9:28 水が張られた田んぼ。ではないと思うのだが、何を育てるのだろう。蓮根?でもないような。

桜井線奈良駅 9:36 本日の撮影に。 桜井線はワンマン運転なのに全ドア開放。無人駅ばかりなので、途中駅間で無賃乗車しようと思ったら簡単にできてしまうのだけど、車掌を乗務させて発券するコストのほうが大きいのだろう。しかしそれは建前上やってはいけんのじゃないか。



奈良県桜井市三輪 14:37 本日の撮影無事終わり。動きすぎる三兄妹の七五三。ひとときもじっとしていなくて、高いところに上ったり走ったり。怪我だけはしないでくれと願う。「ねえこんどいつあそぶ?」子どもからそう言われるのは、僕にとっては大きな名誉である。


三輪駅の周りも古い家が解体されて空き地と駐車場だらけになっている。すごく残念な気がするんだけど、ほかの人はあまり気にしないんだろうな。


桜井線巻向〜柳本 15:14 秋の陽射しの柔らかさ。

ホテルに戻って仕事の続き。