東京地下鉄日比谷線広尾駅 11:36

 

 

 
かすかな風にも花びらが雪のように舞い落ちる。
つい数日前に咲き始めたと思ったら、もう終わりが近い。

道行く人たちは立ち止まり、桜を見上げて写真を撮る。誰も見向きもしないが公園の茂みには山吹が咲いていて、僕が写真を撮っていると、ひと組の母子が後ろを通りかかり「あの花はね、やーまーぶーきっていうの」と子どもに教えている。
 
6年前の桜の咲く頃に、飼い主さんと一緒に駆けっこしてもらった犬は16歳になり、キャリーバッグからちょこんと顔を出し、陽射しを浴びてうとうとしている。老化で目が見えなくなっていて歩くこともおぼつかなくなっているけど、彼女の健康を願ってやまない。
 
行春や鳥啼き魚の目は泪
散りゆく桜を見上げていると、ふいに芭蕉の句が思い出された。