尾道 9:05
25年住んだ家を建て替える前に写真に残す。
新しい家は、息子さん夫婦との二世帯住宅になるという。
犬を飼う生活が長いようで、玄関には二匹の骨壷が飾られており、今はリビングの真ん中を大きなケージが占拠して、雑種だという犬がのびのび歩いている。「リビングは犬に取られました」という夫婦は六畳の和室にテレビを置いて居場所にしているらしい。
一軒家マンションワンルームに限らず、住んでいる家の中にはそれぞれの人の居場所があって、そこからいつも見ている角度というか光景があるはずで、特別な感慨も抱かず毎日その光景を見ていることだろう。覚えていても何の足しにもならぬ光景である。
その光景を誰かと共有する必要はないが、それがそこに自分がいたという自分自身にとっての唯一の証明になりはしまいか。
スケジュールの都合で、朝早くからの撮影であった。
朝7時半に伺うと、依頼くださった奥さんは今日のために福山から来た息子夫婦の分も朝ごはんの準備中。築25年とはいえ、平成生まれの家である。キッチンはオープン形式になっていて、料理や洗い物をしながらリビングを見渡せるようになっている。
おそらく彼女は家族の食事を用意しながらその光景を眺めてきただろう。息子が子どもから大人になって家を出て、犬がリビングで暮らすようになるまで。
僕は彼女が見てきたはずの光景に向かってシャッターを切る。25年間ぶんの存在証明写真。