日ノ丸自動車中河原線岩倉 14:54



  
 
 
 
 
ハーフバースデーの赤ちゃんである。
笑ってくれるツボがよくわからなかったが、泣かれなかっただけよしとしよう。
 
ママは気合いを入れて、部屋の壁を飾り付けていた。
インスタを見て参考にしたらしい。
 
台所を写さないでほしいと言われたので、日常の生活感がある写真もよいものだと応えたけれど、あまり納得してくれなかったような。
 
「せっかくだから良く写りたいじゃないですか」と言う。その気持ちを否定するわけではないけど、散らかった部屋もいつか大切な思い出になると思うのですよね。それがその家族にとっての歴史そのものだから。
 
 
撮影終えて、駅に戻るバスが来るまで40分くらいある。雨宿りを兼ねて、バス停近くの古い小さな喫茶店のドアを開けた。店の名前は「チャコ」。
 
外からテーブル席で居眠りしてる客がいるとみえたのが店の主人であった。隅のテーブルに地元の人らしき先客が一人。
 
還暦をとうに過ぎたと思われる彼は僕が席に着くなり「なんにします?」と聞く。テーブルにメニューはないし、店の壁には「ホットケーキ450円」という手書きの張り紙があるだけだ。
 
コーヒーのほかに何があるかと問うと「トーストならありますよ」と言いながら、カウンターの隅から力の抜けたメニューブックを持ってきた。「あとはスパゲッティとか。スパゲッティはどうですか」彼が二回繰り返したメニューを注文する。スパゲッティは400円だった。ちなみにコーヒーは350円。
 
喫茶店のスパゲッティといえば違うことなくナポリタンである。
噛まずとも口の中で溶けるスーパーソフトな麺は、近所の老人たちに人気がありそうだ。ケチャップの味はしっかりしていて夢中で食べてしまった。カウンターの壁には調理師免許の免状が額に入れて飾られている。
 
店を開いて何年になるのか聞いてみたら「40年以上です」と彼は面白くもなさそうに言い、先ほど居眠りしていたテーブル席に座ると、スポーツ紙を開いて競輪ページに目を落とした。雨はまだやみそうにない。