中国ジェイアールバス西条線中黒瀬 17:31
二週間前に生まれた赤ちゃんを撮る。当たり前だが起きているより寝ている時間のほうが長い。
ニューボーンフォトではないので、ようやく目を開けたときにありったけのパフォーマンスを繰り出して注意を引く。まだほとんど見えていない赤ちゃんはうるさそうに顔をしかめる。
水害で長らく不通が続いていた山陽本線の三原〜白市間が再開したのはつい先日のことである。
河内駅近くを流れる川には、以前見なかった大きな石が河原を埋め尽くしていて、災害の大きさを今さらながらに知る。
線路際の土砂崩れの痕跡が残る箇所では電車は徐行する。ぼんやり景色を眺めて電車の遅れを気にしていなかった。
西条駅には何分遅れて着いたのだろう。駅のコンコースに乗り換えるバスの発車時刻が表示されていて、次いでスマホの時計を見たら、あと1分しかない。
慌てて階段を降りてバスに向かって駆けたが、バスの運転手は気がつかなかったらしい。あと20メートルほど先でバスはドアを閉めて無情に発車して行った。
最寄りのバス停からお客さんの家までは2kmほどの距離があり、歩く時間を見込んでいたのだが、次のバスは40分後である。とりあえずお客さんに遅れる旨の連絡をしてバスを待つ。
駅から十数キロ離れた丘陵地帯の住宅地までバスで行く人は少ないだろう。バスを降りて、かつてはのどかな農村風景が広がっていたはずの道を歩く。車は頻繁に通るが、歩いている人はいない。
途中でプレハブ倉庫のようなタクシー会社の営業所があった。
少しでも早く着けるならタクシーに乗ろうと事務室に立ち寄ると、会社の飼い犬に吠えられる。その声で、誰もいない事務室の奥から女性が出てきて、近くにいるタクシーを呼ぶから外の運転手休憩用のベンチで待つように言われる。
座るとさっき吠えた犬と目が合う。犬はどうやら退屈していたらしい。のどを掻いてやると気持ちよかったのか、もっとやれと体を伸ばしてきた。