東京地下鉄丸ノ内線新宿御苑前駅 13:32
三歳と一歳の兄弟は10秒だってじっとしていない。
ただひたすらに、どこまでもどこまでも、さらにどこまでも歩いてゆく。親が呼び止める声もまったく聞こえていない。
そのまま放っておくとどこまで行くのか、ちょっと試してみたいような気にすらなってくる。
ママからは「ウチの子だけでしょう。こんなにじっとしてないのは」と言われたが、世の中の男子とはだいたいそういうものです。
今日は丸ノ内線の沿線で2件の撮影がある。移動時間が短くて済むのはありがたい。
次の撮影まで時間があったので、駅のホームでPCを開いて仕事する。しばらくして気がつくと、作業服姿の男性がそばにずっと立っている。どうやらホームの空調設備をメンテナンスしているようだ。
僕の座っているベンチの背後はコンクリの壁ではなくブラインド状の 柵になっている。その中に何か機器があるらしい。
彼はどうやら僕がそのベンチを離れるのを待っているように見えたので、ここで作業するのかと問うた。
「いや作業じゃないんですけど、機械を動かしたらそこから風が吸い込まれるので」それが気にならなければそのままいてよいと言う。
なんだそんな大したことではないのに、彼は「お客様」である僕に気を遣ってひと言も声もかけなかったのだ。
ちょっとしたコミュニケーションで問題はすぐに解決するのに、それを避けるのは日本人だからか都会だからか。
僕がぜんぜん構わないというと、彼はほっとした表情を見せる。そして「じゃあ動かして」と離れたところにいた仲間に合図すると、大きな作動音とともに吸い込まれる風が僕に吹き付けてきた。