板東駅に着いたものの

 
 
 
 
板東駅に着いたものの、徳島行きの列車が来るまで1時間以上ある。 
  
駅前に一軒だけ小さな食堂があったが、のれんは出てないし営業しているのかどうかもわからない。入口の戸を開けて入ってみたら白いエプロン姿のおばさんが「いらっしゃい」と言う。店の中には遍路姿の若い男性が一人でうどんを食べている。もう一人、客と見えたおじさんはこの店の主人であるらしい。
 
うどんを注文して待っている間、彼ははす向かいの卓に座って趣味だったというカメラの話を続ける。うどんを作るのは奥さんである。
  
「こんな古い店もなかなかないでしょう」と彼は言う。たしかに昭和時代の雰囲気そのままの店である。それを聞いていた奥さんが「あたしも古いけど」と言うので、いやー若く見えますねと即座に返す。
 
それで気をしたのか、彼女は「お兄さん、有名なカメラマンなの」と聞く。ぜんぜん大した者ではないと答えると、ちょっと改まったような口調で「もっと自分に自信持たなきゃダメよ!」と諭された。ごもっともである。
  
奥さんが運んできたうどんは細く柔らかく、おいしかった。